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改めて考える断熱材の施工|屋根偏

壁と屋根は断熱材の施工状態が少し違う

断熱材を壁に納めるにはまずきちんと納める事が重要です。グラスウールなどの繊維系断熱材を仕様にする場合は必須で、壁内に隙間があると著しく断熱性能が落ちます。いわゆる断熱欠損という状態になります。

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財団法人建築環境・省エネルギー機構資料から引用

 

上図をご覧下さい。主に繊維系の断熱材ですが左上図のようにきちんと施工すれば断熱材の性能は100%発揮できます。しかしその他の施工状態ではいくら性能の高いグラスウールなどの繊維系断熱材を使っても充分に性能を発揮できません。ですが現実は、色んな現場を参考がてら覗いてもこのようにきちんと施工している現場は少ないですね。それは私が他の現場を見て感じているだけでなく、JIOなどの検査員が当社の綺麗に充填されている現場を見て非常に感心するのですから間違いないでしょう。

 

 

それで繊維系断熱材をキチッと充填したとしてですが、次に下図をご覧下さい。 この図は内部結露の発生に防湿材の重要さを示しています。左の図はベーパーバリアという水蒸気バリアの無い状態の壁内図です。右は防湿シートを施工している壁内図です。露点温度と温度がありますが、それぞれ室内より室外へ温度が低くなるグラフで防湿材が無い壁は温度と露点温度がクロスしています。

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「家を建てる前に読む本㈱シャノン」から引用

 

クロスする点が空気中の水蒸気が水分に変わる露点で臨界点なのです。この二つの線がクロスさせない施工が防湿工事で建物の劣化に大きく関わる施工なのですが、この作業は非常に面倒で慣れないとキチンと隙間無く施工する事が出来ません。上図のように家の壁は簡単な壁ばかりではないのです。

 

例を挙げればコンセント周りをはじめ換気扇のスリーブ周り、エアコンの事前配管であるスリーブ周りや、壁と床との取り合い、壁と天井の取り合い、外壁と間仕切壁との取り合いと住宅気密性能の一つである隙間相当面積C値を1.0に近づけることは出来ません。実際には関東地区の多くはこの数字が5.0以下、東北や北海道では2.0以下となっているので1.0は高いハードルです。関東地区は特別1.0にしなければならないという分けではありませんが、高気密高断熱住宅を実践している会社は費用対効果を検討しながら目指すべき目標の数字だと思います。無論当社ではこのレベルを維持するよう努めています。

 

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当社の施工例です。 高性能グラスウールを使用した場合の施工でこのように隙間無く断熱材を充填し、ベーパーバリア工事を行ないます。良く写真を見てください。壁内にある電線がグラスウールの表面に煩わく見えていませんね。キチンと挟み込んで断熱性能を落とさずにいるのです。

 

防湿材による防湿工事も隙間無く行なわなければ住宅のカタログどおりの性能は発揮できません。そうです、皆様が各ビルダーで頂くカタログには断熱性能、気密性能などの数字が書かれていますがそれは100%キチンと施工された場合の数字なのです。これから皆様がビルダーでお建てになるなら事前に現場を見学した方がよいでしょう。あるいは現場が無ければ施工例写真が必ずあるはずですから見せてもらうのもいいと思います。

 

 

さて屋根の断熱の話なのですがもう少々壁の話を致します。お付き合い下さい。それでこの上図の壁の図で室外側には今では通気層の確保が必須となっています。外壁材でサイディングが多いのですがサイディング工事ではまず間違いなく通気層の確保が出来ています。下図を参照してください。

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「木造住宅のための住宅性能表示(財)日本住宅・木材技術センター」から抜粋

 

この図にあるように外壁材と防風材の間には通気層が確保されています。この壁は外部に合板が施されていませんがツーバイフォーのような外壁に構造用合板がある場合でも通気層の確保が必須となります。この図は「木造住宅のための住宅性能表示」という本からの抜粋で温熱環境の結露の発生防止の基準の項目に通気層の設置という形で明示されております。

 

昨今では性能表示や長期優良住宅などの普及、さらに外壁材を販売しているメーカーが職方にサイディング施工の講習を受けないと工事をさせないという行動に出ているので、さすがにサイディング張りでこの通気層のない家は見かけませんが、ほんの10年前までは壁に直張りで通気の無い家がたくさんございました。ただ現在でもモルタル壁のような湿式の外壁を作る場合に多くの家が、通気層の確保をされずに施工される現状をみると、何故外壁側に通気層の確保が必要なのかを理解していないビルダーがたくさんいらっしゃるという事実に、「記憶に重点を置く日本の教育」が遠縁になっているような気がいたします。

 

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枠組壁工法住宅工事共通仕様書(解説付)財・住宅金融普及協会から抜粋

 

少々くどいですが外壁の通気層の確保に関する記述で住宅金融普及協会もかなり前からいわゆる公庫仕様には通気は必須だったのです。ここに掲載しませんがこれとほぼ同じ図が木造住宅のための住宅性能表示にも紹介されており、紹介されている性能表示の項目は「劣化の軽減」の項目なのです。劣化の軽減で性能表示を取得するには通気層は必須なのです。

 

では、何故外部に通気層が必要なのか? もう一度二枚目の図をご覧になってください。この図では防湿工事を施すと温度と露点温度がクロスしていませんが空気は温度の低い方へ移動するのが物理の法則ですのでやがて外に排出されます。この時外部に全く隙間層がないとどうなるでしょうか?当然外部合板外側が露点以下になる訳ですから隙間が無く蒸れる事になります。濡れた合板及び外壁は渇く事がなく長期に渡って少しずつ外壁の合板や柱を傷めます。内部の結露が盛んになりやがて土台や柱が腐り始めます。そして黒カビなどが大発生し住まう方の健康も害し始めます。当然構造材が腐るわけですから建物の寿命は短くなります。だから通気層の確保は性能表示の項目で「劣化の軽減」になっているのです、くどいですが。

 

お分かりでしょうか、これはこれから話す屋根の断熱施工に大きく関わりますので充分に理解してください。これを理解していないと私が問題提起する屋根の断熱施工の話がチンプンカンプンで理解できないと思いますので繰り返し読んでください。今までのが前フリです。

 

さて、屋根の話をする前に一つ断熱材で付け加えておく事があります。ここまではグラスウール・ロックウール・セルローズファイバーなどの繊維系断熱材の話をしましたが最近流行の現場吹きつけの発泡系の断熱材があります。この断熱材の場合、巷間では内壁側に気密シート、つまりベーパーバリアは必要ないと言われていますが正確には何とも言えないというのが実際のところなのです。この断熱材に限って言えば専門家の間でも色々な見解がありはっきりとした態度を示していません。

 

ですが、先ほど紹介した「木造住宅のための住宅性能表示(財)日本住宅・木材技術センター」は違います。性能表示では指針を出しています。発泡系断熱材を使う場合原則気密工事は必要になります。特に北海道・東北地方、また公庫でいうⅢ地区に該当する地区は必要になります。ですが当社が施工する地域Ⅳ地区以南は断熱材の透湿抵抗比(知らなくてよいです)を計算して結露をしないという判定がでれば気密工事は省略出来ます。

ですが、いいですか? 省略は出来るが外部に向かって空気は移動し結露に向かっている状態はあるという事です。現象はなんでもゼロか百ではないのです。ここを押さえておいて屋根の話を読んでください。今回は屋根断熱の施工方法についてお話したいのです。天井断熱ではありません。何、天井ではない? ややこしいですね。では、図をご覧になってください。

 

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枠組壁工法住宅工事共通仕様書(解説付)財・住宅金融普及協会から抜粋

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上図をご覧になればすぐに分りますね、天井裏にすぐある断熱工法が「天井断熱」で屋根の勾配なりに充填されているのが「屋根断熱」です。下段の写真にもあるように屋根の野地板直下に通気層の表記があります。そうです、屋根の場合、内側に通気層を設置して、通り道は棟換気へと流れるように施工するのです。ですが、実際多くの現場でこのように野地板の内側に通気層を確保しているでしょうか?最近は長期優良住宅の普及によりやらなければいけないという事に気付いた工務店が多くなったので通気層を確保する現場は増えているみたいですが、当社は高気密高断熱に取り組んだ時期より実践してきました。

 

5年程前の話です。発泡系の断熱会社で有名な海外の会社があります。ここの断熱材自体は個人的に評価はしているのですが、この屋根断熱の通気層確保に関する問題でちょっとした施工面でのいざこざが生じました。内容は避けますが屋根断熱の通気層がいるかどうかの議論になりました。私は水蒸気の特性を知り理解していたので通気の確保は必須だと主張したのですが、その会社の結論は必要は無いでした。

つまり屋根の野地板直下には断熱材があって通気は無く、野地板のすぐ上にはゴムアスファルトルーフィング、そして屋根材です、このゴムアスファルトルーフィングは瓦などの屋根材の下葺き材で防水が目的になります。そして透湿抵抗が高いです。つまり湿気が透りにくいのです。よって隙間がなく、逃げ道の無い水蒸気は結露し野地板が傷み腐るという結末に至るのに認めようとしませんでした。

 

それなのにその会社は結露するので外壁の通気層は設置するようにという指導をしてきます。この会社の発泡系断熱材は有名でベーパーバリア(防湿シート)はどの地域であっても必要ないというスタンスで宣伝しています。水蒸気の移動は室内から室外へ、室外から室内へスムーズで、結露は起こりえないという理論武装を展開していました。この点につきましては私は何年もかけて研究機関からの発表を精査しながら発泡系断熱の取り組みをしていったものですから疑問は残るものの一応大筋には納得はしていましたが、屋根の断熱に関しては通気層はいらないという結論にどうしても納得できませんでした。

 

夜になると小屋裏の暖かい空気は温度の低い外へ移動します。冬なら尚更です。天井に防湿工事をしないわけですから生活空間から小屋裏へ空気は移動し、外へ向かうはずです。そしてそこで通気層がないと冷やされた空気は露点以下に冷やされ露となるのです。この蒸れがなかなか解消されないとどうなるか、建築屋なら容易に想像が付くはずです。

 

それを壁には通気層は必要で、屋根には必要ないなどと幼稚園児にさえ笑われるような矛盾を一体どう説明するのかと言いたかったのを当時は覚えています。

 

今でも私の性格が悪いのかこの会社に見積依頼する時はこの問題について聞いています。最近は小屋裏で空気が対流するから大丈夫と言っていますが、それだったら何故、性能表示の劣化の軽減最高等級や温熱環境最高等級、長期優良住宅の屋根断熱の規定に通気層の設置を義務付けているのかの説明を行なって欲しいものです。

 

さてさて、実は内側の通気層設置には少々問題点も残っているのです。屋根の垂木間、内側に通気層を設けてもすんなりと棟換気まで空気の通り道を確保できないのです。「ころび止め」と言いまして、母屋が転ばないように横に取り付ける部材があります。ツーバイフォーの場合も同様、床、屋根、壁の枠組みの補強に付ける部材、これがころび止めです。これを横向きに取り付けるのですから当然通り道を邪魔します。

 

これを空気が通るように施工するのですが、これに手間がかかります。屋根が寄棟だとさらに面倒です。また施工が煩雑になりがちなのも問題です。施工はシンプルにスマートに納めたいものです。

 

透湿ルーフィングを知っていますか?

 

透湿ルーフィングという商品をご存知でしょうか?先ほど申し上げたゴムアスファルトルーフィングは透湿抵抗が高く湿気を透さないと言いました。しかしこの透湿ルーフィングは外から侵入する水は跳ね返し、屋根内側から来る水蒸気は透すという優れた商品です。

 

3、4年前だったかな、ちょっと忘れましたが東洋大学工学部建築学科の教授である土屋喬雄工学博士に面会に行きました。教授は透湿ルーフィングの研究をしていると聞いたからです。当時、屋根の断熱施工に海外では透湿ルーフィングという商品があるのを知りました。ジャパンホームショーでその商品を見つけて使おうとしたのですが何故かその時は日本で認定商品ではありませんでした。それを使って施工は出来るのですが、認定が取れていないので保証は付かないとの事、この保証の面で問題があり結局は使えなかたったのです。そこで以前にお会いした事もある教授に連絡を取ってお会いしたのです。

 

この透湿ルーフィングを使えば内側に通気の確保は入りませんが、屋根材は限定されます。瓦だけです。コロニアルやシングル葺などゴムアスに直張りし、野地板の外側に通気の確保が出来ない屋根材は不可です。使えません。何故なら透湿ルーフィングの外で隙間が無ければ意味がないからです。その点瓦の施工は必ず瓦桟を打ち、隙間を設けますから自ずと通気の確保に至ります。

 

それで透湿ルーフィング協会なるものがあり、そこでは色々情報がありますので興味のある片は覗いてください。今私が紹介した土屋教授も顧問として名前が載っておりました。東洋大学は退官されたと聞いていますのでこちらで頑張っておられるのでしょう。

 

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透湿ルーフィング協会HPから抜粋

 

上図の写真をご覧になってください。右下段はゴムアスを施工して剥がした野地板の状態です。左上が透湿ルーフィングを施工し剥がした状態です。一目瞭然、百聞は一見に如かずです。説明するまでもなくゴムアスを使うと屋根の状態はこうなっている可能性が高いのです。屋根屋さんに聞くとコロニアルなどの薄い屋根材をリフォームでやり直すときこの野地板がプカプカしていると聞きます。

 

まだ当社のように野地板の内側に通気層を設けていればこのようにはならないかもしれませんが、今まで日本で建てられた多くの住宅はたとえ瓦であっても屋根断熱の場合で通気層の設置が無い場合、このような状態になる可能性が残念ですが高いです。では、ゴムアスを使用しても天井断熱ならこのようにはならないのではないか?という疑問が当然湧きます。

 

実は天井断熱でも野地板は傷んでいるのです。先ほどの屋根屋さんの話でもあるように新築して10年を超えると屋根材は結構傷んでいるとの事、一体どうしてでしょうか?それはコロニアルなどの石綿スレート材は薄く野地板にほぼピッタリ施工します。このピッタリが問題なのです。石綿スレートは表面に水が染みこまないよう加工されていますが当然永遠に持つものではなくいずれは劣化します。瓦だと天井断熱の場合傷みにくいですね、理由は熱劣化が少ないからです。

 

窯業系瓦の場合、劣化すると水が染み込みやすくなるのです。おまけにいくら屋根材はあるといっても夏場の屋根の温度は90度にも達します。何年も毎日寒暖の差にさらされるといくら構造用合板の野地板であっても傷むに決まっています。そうです。野地板は実に熱劣化もしているのです。ある専門家にいわせると水蒸気や水の浸入による痛みよりも熱劣化の方が大きいのではと指摘しております。

 

では、これらの問題を解決するにはどうしたらよいのでしょうか?一番得策なのは屋根材を瓦にする事です。瓦桟を打つ(つまり胴縁)工事があるのは瓦だけです。この工程のある屋根材を採用し、屋根断熱なら透湿ルーフィングを使うです。天井断熱でも一応透湿ルーフィンルグは有効なので使った方が良いでしょう。

 

予算の関係で瓦が使えないなら野地板直下に通気層確保です。天井断熱なら10~15,20年後に屋根のリフォームでしょう。要するに野地板は熱でやられますので瓦以外ならリフォームは特に必要となります。

と屋根に関する問題をあぶり出し今ある最善の施工方法から論理的に導きだされる屋根の断熱方法の結論となります。最もとんでもなく予算を掛けられるなら私の知らない施工法、施工部材はあるかもしれません。もしあればどなたでも構いません。お教え下さい。

 

最後に通気の問題解決方法で他の工法を紹介しますと、一部輸入住宅メーカーでは二重野地という方法を取っております。要するに野地板の上に外壁の通気層よろしく胴縁を廻し、その上に更に野地板を張るという何ともコストのかかる方法を採用してます。(と言っても家の資産を守るという点からみれば小さいですが)まあ、堅いですね、間違いありませんしこの施工方法は望ましいです。ただ破風・鼻隠しの見付けが大きくなるのが良いか悪いかですね。

 

最後に政府がここ数年打ち出している住宅政策、性能表示ではパッとしませんでしたが、長期優良住宅の普及、住宅エコポイントやら木の家整備促進事業などの補助金制度により多くの工務店やビルダーが高気密高断熱で長寿命の家づくりの施工方法を学び始めました。私がこの業界に入った翌年に京都議定書が定められました。このときに諸外国から日本の産業廃棄物の多さ、特に住宅の産業廃棄物の多さに各国は驚かれたのです。日本の住宅の産廃が多い理由に住宅の寿命の短さだからです。

国土交通省住宅局の人に聞くと各国から相当攻められたみたいでこの時に日本の住宅政策にスイッチが入りました。そして住宅局の人間が言うには、「ほとんどの工務店はこの性能表示の施工方法について来れない」と言われましたのが非常に印象深く心に残っています。

 

しかし今では政府の努力もあって住宅後進国である日本にも長期に渡って快適に過ごせる家がたくさん誕生するようになって来ました。後は大半を占める建売住宅までこの思想が反映されるかですね、大いに期待しましょう。

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2012年1月24日 | コメント/トラックバック(0) |

カテゴリー:建築技術

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